第二章 阿修羅姫(3)

「さっきの、あの針使い――あれは、一体何者だったんですか?」

 サラと共に学長室に招かれた文楽は、応接用の椅子に腰掛けるなり是人へ尋ねかける。

「《英雄殺しアンタレス》という異名に覚えはあるかな?」

「同じ戦場に出たことはありますが、本人を見たことはありません。なるほど、あれがそうだったのか」

「ほう。同じ戦場に居て顔を合わせたことがないとは、奇妙な話だね」

「隣を飛んでいる機甲人形アーマードールに誰が乗っているのか、全く知らないまま共闘することなんて珍しくありません。だから自分も、名前に比べて顔はあまり知られていません」

 人類が戦っている敵は、実体を持たない情報の悪魔【ゲーティア】だ。

 彼らはあらゆる通信網を介し、電子機械の中に潜り込み、意思なき機械を汚染する。

 電波や情報という形のない存在の中に、形のない魔物が潜んでいるのだ。軽い気持ちで通信回線を開いてしまったが最後、そこから敵の侵入を許してしまいかねない。

 結果、機体には通信機そのものが搭載されなくなってしまっている。

 わざわざ機体を近づけて拡声機で呼び合うなり、有線回線を使うなり、自己紹介をする手段がないわけではないが、そんなことをする必要はないというのが戦場の常識だ。

 操縦士達は、同じ戦場にいる兵士達とではなく、自機の人形知能デーモンとしか会話をしない。

「それに、自分が居た部隊は、他の部隊と積極的に交流を行うことはありませんでしたから」

「ああ……そういえば君が居た部隊は、そういう性質の部隊だったね」

 どこか奥歯に物が挟まったような物言いで、是人学長は曖昧に言葉を濁す。

 文楽自身も、自分の過去にあまり触れられたくないのか、話題をすぐに本題へと軌道

「しかし、その二つ名はあまり名誉なものではない。別に、彼女自身が味方の背中を撃ったというわけではない」

「彼女は実に運が悪かった。二つ名と言えば聞こえはいいが、彼女の場合は忌み名の性質が強い」

 彼女が《英雄殺し》という名で呼ばれる理由は、どうしようもなく単純だ。

 それは、「彼女が出撃した戦場では必ず〝英雄〟が死ぬ」という一つのジンクスによるものであった。

「〝第二の大罪〟が落とされたとき、彼女が僚機の操縦士だった。彼女に噂がつき始めたのは、思えばあれがきっかけだ」

 ゼペットはしみじみとした表情で、かつての忌まわしい記憶を手繰る。

 第一の大罪〈ルシフェル〉が生み出されてから実に十年。多くの戦果を上げてきた《七つの大罪セブン・フォール》であるが、その一体は既に人類の手から失われている。

「そして、俺がレヴィアを奪われた日も、同じ空に居たという話だ」

「ああ。〝大罪〟が失われた忌まわしき戦場に、彼女は二度も居合わせてしまった」

 《七つの大罪セブン・フォール》は、人類の希望であり、すがるべき七つの柱だ。

 そんな存在を生み出してしまった技術者として称えられる一方、その名の重みにゼペットは悩まされているのだろう。

 大きな希望の存在は、失われれば大きな絶望を引き起こしてしまう。

「彼女は人々の心の穴を埋めるために、人柱にされてしまった不運な人間だよ」

「だが、墜とされたのは墜とされた当人の問題だ。むしろ、英雄すら命を落とすような戦場で生き延びてきているなら、充分な能力を持っているという証左だ」

「ところが、そう思わない人間も多くてね。半ば強制的な形で、実戦任務から外されて試験操縦士をやらされている。今回も、その任務の一貫でこの基地に来たというわけだ」

「そうか……下らない人同士のいさかいで、前線から優れた戦力が失われるのは勿体もったいない話だ」

「やはり、似た立場としては同情を感じてしまうかな?」

 ゼペットの意地の悪い問いかけに、文楽は不機嫌を露わにした表情で応じる。

「あくまで、客観的な事実の話だ。俺自身は、あの人間の感性を嫌悪している」

「君がそこまで自分の感情をはっきり口に出すとは、初めて会ったときにはとても想像できなかったよ」

「ああ、全くだ。ここまで人に腹が立つとは、自分でも本当に驚いている」

「……様々な人形の造型に携わってきた私だが、どうすれば君のような人格が出来上がるのか、全く想像がつかないよ」

 ゼペットはどこか感嘆の念すら宿る声で、ひっそりと言葉を落とす。

 一方の文楽は、自分の隣に座る仮装人形の少女、サラに目配せしてから口を開く。

「事情は概ね察した。つまり彼女は、この〝人喰い〟のテストパイロットの任を与えられ、この基地へ機体と共に送られて来たというわけか」

 出撃すれば味方を死なせるといういわくのついた操縦士と、乗った人間を死なせてしまうと噂される人形。

 噂の真相は置くとしても、その組み合わせを考えた人間はあまり品性が良いとは言えないと文楽は正直に思った。

「ああ。しかし第一印象があまりに悪く、結局サラはさっきのような大脱走をはかり、保安部隊を引き連れて追いかけ回してしまった。これではもう、試験操縦を任せるのは難しいだろう」

「なるほど……それで、その当事者が、さっきから自分の腕にしがみついているのは、どう捉えるべきなんだ」

 文楽の隣に座るサラは、退屈さを持てあましてしまったのか、彼の腕にしっかりとしがみつき、猫のようにスリスリと頬ずりをしている。

「おい、どうして腕に顔を擦りつける。かゆいのなら自分の手でやれ」

「サラねー、こうしてるとなんかおちつくー」

「俺は落ち着かない。というか、少しくすぐったいんだが」

「え、ほんと!? じゃあ、もっとくすぐっていい?」

「いいわけないだろ」

 ちなみに猫がこのような行動に出るのは、自分の匂いを擦りつけることで「これは自分の所有物だ」と主張するためだという説がある。サラの行動にそこまでの意図があるかどうかは定かでは無い。

 ただ、客観的に、誰の目からも明らかな一つの事実がそこにはあった。

「どうやら君は、サラに気に入られてしまったようだ。どうしようもなく、第一印象が良かったらしい」

「だが彼女は、俺と初めて会ったとき、『お前を破壊する』といった主旨の言葉を言い渡されたぞ」

「物騒だね。具体的にはどんな?」

 文楽がその言葉を思い出そうと必死にうなっていたところに、サラが一層強い力で文楽の腕を引き寄せながら、勢いよく言い返した。

「CRUSH ON HIM!!

「ああ、なるほど。やはり君は、彼女に好かれているらしい」

「どういう意味だ。CRUSHとは、『壊す』という意味ではないか?」

 サラの言葉に首を傾げる文楽へ、ゼペットはにこやかに微笑みながら答える。

「ONがつくと意味が全く違うものになるんだよ。ニュアンスを最大限正確に読み解くならば『好きになっちゃった』という意図に解釈するのが妥当だろう」

「口調を真似する必要はどこにあった」

「ともかく君ならば、先ほどのような大事が起きる心配もない。それに、技能に対する信頼はもはや言うまでもない」

「なし崩しに決めようとしているな。別に俺でなくとも、試験操縦士ぐらい、あてはいくらでも見つかるだろう」

 鋭い眼つきで、文楽はゼペットの顔を睨み付ける。

 初めて会ったときは、得体の知れない威圧感に押されてしまって、彼の言うことを頭から呑み込んでしまうしかできなかった。

 だが、呑み込むだけが蛇ではない。睨みつけることもまた蛇の性分だ。

「えー? お兄ちゃん、サラに乗るのヤなのー!?

「好きとか嫌いとか、そういう次元で決めるべき話ではない」

BOOぶーっ!! お兄ちゃんまで、さっきのイヤな人みたいなこと言う!」

 頬を風船のように膨らませて、サラは機嫌の悪さを主張する。先ほどのように暴れないだけいいが、手が掛かることに変わりはない。

「いいか、サラ。人間も人形も、好きとか嫌いとか、そういう単純な感情だけで物事を判断してはならない。世界というやつは複雑なんだ」

「でも、お兄ちゃんはサラのことが好きだから助けてくれたんじゃないの?」

「いや。俺はあの女の言動が好きになれないから、助けただけだ」

「なにそれー!? お兄ちゃんだって好き嫌いで決めてる!!

「ああ、そうだ。そのせいで今、こういう面倒な状況に陥っている」

「サラがめんどくさいってこと!?

 怒った表情で、サラは文楽の腕をぐいぐいと引っ張る。可愛らしい動作だが、彼女のとんでもない馬力のせいで今にも肩が外れそうだ。

 苦悶くもんの表情を浮かべながら、文楽は必死に弁解の言葉を叫ぶ。

「違う! これ以上、乗機が増えるのは面倒だと言ってるんだ!!

 文楽は訓練生でありながら、二機ふたりもの機甲人形アーマードールから搭乗をせがまれるという、非常に困った状態にある。

「そもそも、まだその試験とやらの意図も方法も聞いていない。決めるなら、まずは話を聞いてからだ」

「だって父さま! 早く説明したげて!!

「わかったわかった、そう急かさないでおくれ。サラ」

 サラのえ立てるような声に押されて、ゼペットは苦笑いを浮かべながら説明を始める。

「試験の目的は単純だ。サラがどうして次々と搭乗者たちを再起不能にしてしまうのか。その原因を探ることが目的だよ」

「つまり、乗ったら死ぬと噂される機体に乗ってみて、本当に死ぬのかどうかを試そうというわけだな」

 文楽のあまりに明け透けな言い方に、ゼペットは思わず苦笑いを浮かべる。

「私だって、君にもしものことがあっては困る。これはあくまで試験操縦だ。戦場でなければ大事に至る可能性は低いし、君ほどの技能を持つ操縦士なら更にその確率は低くなる」

「別に命が惜しいと言うつもりはない。だが、単なる試験で命を賭けたくはない。俺にはまだ、やるべきことがあるからな」

「……本当に君は変わったね。以前の君は、自分をいつ死んでも良い人間だと思っているように見えた。だが今は、はっきり『死ねない』と口にしている」

「今の俺は〝死んだ英雄アスクレピオス〟じゃない、ということらしい」

 ゼペットは同意を示すように静かに頷く。

 フェレスの言葉に、ただ感化されてしまったわけではない。彼女のおかげでそう思えるようになったのだと、文楽自身もはっきりと自覚していた。

「文楽君。そもそも君は、〈アスモデウス〉の話について、どこまで知っているかな?」

「〝人食人形マンイーター〟の逸話は、前線の操縦士には有名な語りぐさだ。五人もの再起不能者を出したと聞いている」

「いや、君がこの基地に来てから今までの間に、更に一人の操縦士を再起不能にしている。合計で六人だ」

「五人でも尾ひれの付いた噂話と思っていたが……六人目の操縦士の死因はなんなんだ?」

「戦闘中、急激な機動に耐えきれず嘔吐おうとしてしまい、それが喉に詰まって窒息死したという話だ」

「ふむ……なるほど。死に方自体は、別にそれほど異常ではないのか」

 文楽はほっと息を吐いて力の抜けた声で続ける。

「操縦士の死に方としては、かなり一般的なものだ。もっと怪奇じみた死に方なのかと思っていたが、俺の考えすぎだったようだな」

「……その反応は、あまり一般的な人間のものではないと私は思うが、現場ではそれが一般的ということらしいね」

 機甲人形アーマードールが開発されて以降、戦場での人間の死傷者数は劇的に下がっている。

 だが、決して誰もが無傷で帰ってくるというわけでもない。

 機体そのものに一切の損傷がないにも関わらず、重傷を負って帰還する操縦士というのも中には存在する。

「俺も未熟だった頃は、レヴィアのおかげで血を吐く羽目になったことは何度もある。いや、血の混じった尿が出たのだから、吐くというよりは排出すると言った方が正しいか」

「……若いのに大変だね。奔放な娘が迷惑を掛けて申し訳ない」

「とにかく、わざわざ調べるまでもない。機体の性能と操縦士の技量が見合っていなかっただけだ」

「もちろん。そう思って操縦士は優秀な人間が選ばれていたと聞いている」

「なるほど、やっと話が見えてきたな」

 先ほどの脱走劇を見れば明らかなように、操縦士と人形の相性は性格の合う合わないも非情に重要な選考基準だ。ときには能力よりも優先される。

 もし能力だけを優先して選んだ結果、耐えがたい性格の不一致があったとすれば、人形が故意に操縦士を追い出そうとしてもおかしくはない。

「故意か否か、それがまず問題だな」

 文楽は隣に座るサラのことを、怪訝な表情でちらりと伺う。

 仮装人形の少女は、無垢むくな瞳で真っ直ぐに文楽の顔を見つめ返してくる。

「〝コイ〟? サラがお兄ちゃんに恋してるってこと?」

「恋……とはなんだ?」

「好きで好きでたまらなくて、その人のことしか考えられなくなっちゃうこと!!

「〝好き〟という感情が、そもそも俺にはよく分からないんだが……」

「お兄ちゃん、好きな人はいないの?」

「そうだな。〝嫌いではないやつ〟なら、何人か心当りがある」

「そーなんだ。じゃあ、サラのことは好き? 嫌い?」

「少なくとも嫌いではないな」

「ほんと? じゃあサラは、お兄ちゃんのこと好き!」

「人を振り回すのは乗っているときだけにしてくれ」

 サラはしゃべるたびにコロコロと表情が変わり、話の主旨も興味の対象も次々と移り変わっていく。あまりにも自由で、とらえどころが無い。

 彼女は、自分に欠けてしまっている〝何か〟に、とても満ちあふれている。

 それが具体的に何なのかは分からない。ただ、興味深い存在であることだけは確かだ。

「サラ。お前は、自分の操縦士が命を落としたときのことを覚えているか」

「ううん、よく覚えてない。いつもがーっと戦ってばーっと敵を倒して、あれって思ったら乗ってる人がぐったりしてるの」

「……専門的な用語が多くて分からんが、とにかく故意ではないらしいな」

 いくら人形が嘘をつけないとはいえ、覚えていないものは答えようがない。とりあえず、「覚えていない」のは事実なのだろう。

 だが、彼女が他の人形に比べて言動が幼いのも、高度な量子頭脳を持つ人形知能デーモンでありながら記憶が曖昧なのも、どちらも違和感がある。

「話を戻そうか、文楽くん。この任務の重要性については、理解してもらえていることと思う」

 ゼペットの問いかけに、文楽はただ静かに頷く。

 表面的には、不具合のある機体を後方に下げ、試験操縦を行って点検し、修理して再び戦力として前線へ送り返す。ただそれだけの仕事にすぎない。

 だが、無意識に〝操縦士を死なせてしまう機甲人形アーマードール〟が存在するという事実は、他の機体でも同じ現象が起こってしまう可能性を示唆している。

「この問題は、〈アスモデウス〉一機ひとりを前線から退けたところで済む話ではない。それは、俺にも分かる」

 サラというたった一人の人形が持つ問題は、人間と人形の共存関係がこれからも存続していけるかどうかの命運にも大きく関わっている。

 文楽の表情は、話を聞き始めた当初に比べて明らかに真剣なものへと変わっている。

 確かに危険すぎる試験運転であることは事実だ。だがこの問題を放置することは、人類全体の危険に発展しかねない側面も持つ。

 文楽は真剣な表情を、話の当事者であるサラへ真っ直ぐに向けた。

「サラ、お前はどうしたい」

「えっ……サラのこと?」

「そうだ。お前の意思が聞きたい」

 まさか自分に話の矛先が向かってくるとは思っていなかったのだろう。

 すっかり油断していたサラは、うんうんと唸りながら、言葉を少しずつ紡いでいく。

「さっきお兄ちゃんが糸を使ってたときの指の動き、とても綺麗きれいだなって思ったの」

「綺麗、か……不思議と悪い気はしないな」

「だから、この人がサラに乗ってくれたら、すごく気持ちよさそうだなって思った!」

「それはつまり、俺が乗ることを拒否しないということか?」

「うん! サラは、お兄ちゃんに乗って欲しい!!

 サラは弾んだ声で言うと、文楽の腕に再びひしっとしがみつく。

 腕の力加減があまりに全力過ぎて、若干苦痛に表情をゆがませながら、文楽は真剣な表情でサラの目を見つめながら言った。

「わかった、良いだろう。話を聞いて俺も、お前の機体からだに興味が出てきた」

「ほんと!?

「今は訓練生の身とはいえ、俺も一人の操縦士だ。誰も乗りこなせない機体などと言われてみれば、具合を試してみたくなる」

「サラって、そんなに魅力的!?

「魅力というには少し、魔性が強過ぎるな」

「父さま! サラ、お兄ちゃんと一緒がいい! テストの間だけじゃなくて、この先もずっとずーっと!!

「待て腕を放せ! 肩が外れる!!

 サラは文楽の腕をぶんぶんと上下に振りながらゼペットへおねだりを始める。あまりに上下動作が激しくて、今にも肩が外れそうだ。

 文楽はしっかり張り付いてしまったサラを腕から引きはがしながら、ふとあることに気が付く。

――サラが好ましくない人間を、意図的に排除してきた可能性はあるのではないか?

 文楽に伝えられているのは「操縦士が命を落とした」という事実だけで、その操縦士とサラ自身がどういう関係で、どういう感情を抱きあっていたのか、そこまでは分からない。

 おそらく資料や調書を紐解いても、それを正確に理解することはできないだろう。

 サラの内心を読み取ることは、おそらくこの任務においてもっとも重要な課題だ。そして、その役目を請け負うのは言うまでもなく自分だ。

 人形の心を、正しく理解することなど、自分に出来るのだろうか。

 自分自身の心すら、まだはっきりと掴みきれていない、この自分に――

「いや、話がうまくまとまったのは喜ばしい。けれど、この先ずっと、というのは少し難しい話しかもしれない」

「どうして、父さま!? サラはお兄ちゃんじゃないと絶対にやだ!!

「それがあいにく、彼には先約が二人も居て――」

 ゼペットが冷や汗交じりに言いかけた、そのときだった。

「そんなのダメです!!

「そんなのダメだよ!!

 ばたーん。

 三人が会話を繰り広げていた学長室のドアが、盛大な音を立てて開かれた。

 掛かっていた鍵が呆気あっけなくへし折れ、吹き飛び、床を点々と転がっていく。

 開かれた扉の向こう。部屋の前の廊下には、二人の少女が並び立っていた。

「お、お前ら……ずっと聞いていたのか!?

 文楽は驚きの表情で、二人の仮装人形を見つめる。

 一人は、先に寄宿舎へ帰らせたはずの、メイド服姿の仮装人形フェレス。

 そしてもう一人は、肩までかかる青のショートカットに、額から生えた牙のように不揃いな角。執事が着るようなタイ付きの燕尾服に身を纏う男装の仮装人形レヴィア。

 ともに文楽の現愛機と元愛機であり、互いに命を賭けて争ったこともある二人だ。

「えっと、その……文楽さんが、知らない人形の方と一緒に部屋に歩いて行くのを目にしてしまって、つい魔が差してしまったと言いますか……」

 言い淀むフェレスの言葉を遮って、悪びれもない態度でレヴィアが続ける。

「本当はすぐに跳び込んでやるつもりだったんだ。けど、この嘘つき人形が『それはまだ早いです。言質げんちを取るまで待ちましょう』って言うもんだから、仕方なく聞き耳を立ててたんだ」

「人聞きが悪いです、レヴィアさん! 私はその、暴力的な手段はよくないと思っただけです! 決して、話の一部始終を確認して文楽さんの考えを確認して言い逃れができない状態になってから問い詰めようと思っていたわけでは……」

「フェレス。こういうときぐらい、もっとまともな嘘をついてくれないか」

 文楽は冷や汗まじりに懇願の言葉を口にする。

 どうやら知らない内に、フェレスの手の上で泳がされていたらしい。

「あの……ご、ごめんなさい文楽さん。つい、試すようなことをしてしまって」

「それで試した結果、お前の中で俺はどういった人間ということになったんだ」

「はい。文楽さんは私という乗機がありながら、他の人形に軽々しく『お前に乗ってみたい』と口にする、それはひどい浮気性をお持ちの操縦士さんです」

「お前、本音を言っても強いな」

 あまりにも容赦無い嘘偽りのない心からの罵りに、さしもの文楽も気押されてしまう。

 そして、フェレスとはまた別の方向に怒りを湧きおこしているレヴィアが、不満げな表情で食って掛かった。

「どさくさに紛れて何言ってるんだこの嘘吐き人形! マスターの乗機はこのボクだと、何度言わせれば分かるんだ!!

「何度でもおっしゃっていただいてかまいません。いつわりをいくら重ねたところで、真実は決して覆ることはありませんので」

「おいおい、嘘つきはお前の方じゃないか。とんだ恥知らずだ」

「あら、その偽りの人形に墜とされた方はどなたでしたでしょうか? 栄光ある《七つの大罪セブン・フォール》の名前が泣きますよ」

「おっ、お……表に出ろーっ!!

 レヴィアはカッと口を開き、牙のような犬歯をき出しにして吠え立てる。心なしか「キシャー」という蛇の威嚇する音が聞こえてきそうだ。

 人間同士の喧嘩ならまだいいが、人形同士となれば機体を持ち出して争い始めかねない。文楽は慌てて間に入る。

「レヴィア、たかが口ゲンカで事を荒立てるな」

「〝たかが〟じゃないよ! 今度こそ、どちらがマスターに相応しい人形か決めてやる!」

「それで人形同士での戦闘を始めてみろ。前線から精鋭部隊が派遣されて、今度こそ暴走機として処理されるぞ」

「……わかったよ。マスターに免じて、ほこは収めよう」

 今から一ヶ月前のことだ。

 ゲーティアの洗脳を受けていた以上仕方がなかったとはいえ、〈リヴァイアサン〉はたった一機でこの郡河基地を壊滅寸前にまで追い込んだ。

 もし喧嘩とはいえ彼女が人形同士で戦闘など始めれば、また汚染を受けたのかと勘違いした基地の人々は大パニックに陥ってしまうだろう。

 ちょっとした乙女心の機微きびに、人類の存亡が右往左往させられてしまうのがこの時代だ。

「でも、マスターは気が多すぎるのが良くないよ! そんなに殺人的な加速度が好きっていうなら、ボクがいつでも臨死体験させてあげるのに!!

「一体どこに嫉妬心を燃やしているんだお前は」

「レヴィアさんもサラさんも危険すぎです! 文楽さん、私は安全でゆっくりした速度であなたの身をいたわってさしあげますよ?」

「バカを言え。戦場でゆっくり飛ぶなんて、標的にしてくれと言ってるようなものだ」

「じゃあどうすればいいんだよ、マスター!!

「じゃあどうすればいいんですか、文楽さん!?

「まずは落ち着けお前ら! 話はそれからだ!!

 文楽は毅然とした口調で言い切りながら、人差し指を地面に向かって突き立てる。二人は主人に叱られた犬のように、渋々といった様子で正座する。

 ぷくっと頬を膨らませて不満そうな表情を浮かべるレヴィアとフェレス。解決の方策が見当たらず頭を抱える文楽。問題の根源でありながら、まるで自分には関係ないとばかりに能天気な表情をしているサラ。

 収拾の付かない混迷極める状況に、事態を静観していた初老の男はゆっくりと声を上げた。

「さて、そこで君たちに、一つの提案をさせてもらえないだろうか。こちらも手伝ってもらうからには、ささやかながら報酬を用意したい」

「報酬? 金で解決する問題ではないぞ」

「もっといいものだよ。この基地の近くに洋館があるのだけど……文楽君。そこに住むつもりはないかね?」

「洋館ですか?」

 何の話をしているのか、と戸惑う文楽を差し置いて、床に正座していたフェレスがいきなり飛び上がり、ゼペットの元へと駆け込んだ。

「もしかして、あの林道の奥にあるお屋敷のことですか!? ときどき通りかかるとき気になってたんです! あんな素敵な所に住んでみたいって、私ずぅうっと思っていて!!

 さっきまでの怒った表情はどこへやら、フェレスは表情をぱっと明るくする。

 両頬に手を当て、天井をキラキラした瞳で見上げながら、なにやら空想の世界に旅立とうとしてしまっている。

 文楽は冷ややかな眼差しをフェレスに送ると、諦めたようにため息を吐いた。

「……なんだか楽しそうだから放っておこう。それで、どうして洋館に住むことになるんだ?」

「あの洋館というのは、軍が私の為に用意してくれた住居なのだよ。それなりに重要人物として、丁重に扱ってもらえているみたいでね」

「そこに俺が住んでしまったら、あなたはどこに住むんだ」

「私はそもそも、その館を全く利用していないんだ。研究者時代からのくせで、基地内の研究室でばかり寝泊まりしていてね。広すぎて管理するのも一苦労だし、ここ数年は放りっぱなしだ」

「なるほど……だが、フェレスの負担が増えてしまうだけだ。報酬とは言えない」

 現在、文楽が住んでいる宿舎の掃除や模様替え、家事の一切はフェレスが自分から進んで行っている。

 だが、ワンルームの宿舎とは違い、洋館はそれ自体が集合住宅のような広さと部屋数を持っている。彼女一人にその全てを任せきるのは、文楽としても忍びない。

 だがそんな心配を押しのけて、フェレスはやる気いっぱいに応じた。

「とんでもありません! むしろ、文楽さんが学校に行かれている間、やることがなくていつも暇を持てあましてしまっていたぐらいなんです! 宿舎のお部屋はそれほど広くないので掃除もすぐ終わってしまいますし……」

「やるべき家事がないのが不満だったのかお前は」

 信じられないとでも言いたげに、文楽はフェレスの顔を引き気味な表情で見つめる。

 実際、彼は家事というものに全く手を出したことがない。

 眠るときは土の上に外套がいとうを敷いてその上に寝転び、服は同じものを数ヶ月近くも着続け、食べ物はそのとき手に入るものを枝に刺してき火で焼いて食べるだけ。

 そんな前線の荒んだ日々に慣れてしまった文楽にとって、生活とは〝死なないこと〟でしかなく、それ以上を求める考え方が根本的に欠けている。

「最近では暇な時間を有効活用するために、編み物も始めてみたんです。文楽さんが今履かれている靴下も、実は私の自信作なんですよ」

「そういえば足下がいつになくぬくい」

 機甲人形アーマードールがこれだけ退屈していられるぐらい平和なのは、喜ぶべき状況なのだろうか。

 そんな彼に言葉を投げかけたのは、退屈そうに話を聞いていたレヴィアだった。

「でも、マスターだって同じことだよ」

「俺は靴下を編んだことはないぞ」

「そうじゃなくって! 敵が少ないとき、いつも物足りなさそうにしていたじゃないか。口には出していなかったけど、ボクには手に取るように分かっていたよ」

「いや、俺はそんな不謹慎ふきんしんなこと……その、無いと言えば、嘘になるかも知れないが」

「そんなに悩まないでよ。ボクはそんなマスターのことが好きなんだから」

 レヴィアは片目だけを開いて、フェレスのことを舌でめるようなじっとりとした目線を送る。「お前には分からないだろうけれど」という言葉がありありと見て取れた。

 まるで外野のような態度を貫くレヴィアに、ゼペットは微笑を含ませながら言う。

「それに、この条件は君にとっても悪くないはずだ。レヴィア」

「どういう意味だい、父さん。別にボクには関係ない話だし、これ以上対抗馬が増えるのは、ハッキリ言ってごめんだよ。妹だろうと誰だろうと、マスターとボクの間に入ろうとする存在は全てが敵だ」

「そうは言うが、今のままでは文楽くんと会うのに何かと不自由ではないかな?」

「……別に、そんなこと、ないこともあるけど」

 レヴィアは不服そうに口をとがらせながら、否定の言葉を口にする。

 だが、事実は確かにゼペットの言う通りだ。

 一ヶ月前、ゲーティアの尖兵せんぺいとなって郡河基地を強襲し、たった一機で基地の保有する機甲人形アーマードールの半数以上を倒し防衛機能を壊滅させた〈リヴァイアサン〉は、今や基地の人々にとって恐れの対象となっている。

 そんな彼女が、自分を撃墜したはずの訓練生、愛生文楽と会って仲良くしているのは、事情を知らない人間には奇妙に映るだろう。下手をすれば、彼の正体が露呈しかねない。

 人目を忍んで逢瀬おうせを重ねる、痛し痒しな状況がずっと続いていた。

「ボクは誰にどう思われたって気にしないよ。でも、それでマスターが困るのはダメだ。ちゃんとこの訓練学校を卒業して、改めてボクの一部になってくれないと」

「しかし私の館なら、宿舎と違って充分な部屋数がある。君も一緒にその館で住むことにしたらどうだろう。今のように人目を気にして、コソコソと会う必要もなくなる」

「うっ、ううううう……これ以上馬の骨が増えるのは嫌だけど、マスターと一緒に住めるのは確かに最高だし、でも、ええっと……」

 思考の渦にはまり込んでしまったレヴィアは、ぐるぐると目を回しながら悩み込んでしまっている。戦闘時では一瞬よりも早く高度な戦術判断を行えるような処理能力を持つ彼女であっても、揺れる乙女心の複雑怪奇さには為す術がない。

 思考の迷路にはまりこむ人形知能デーモンに手を差し伸べたのは、今まで反目し合っていたはずのフェレスだった。

「悩むまでもありませんレヴィアさん! いいから賛成してください。でないとレヴィアさんの部屋は用意してあげませんよ!?

「うるさい、嘘つき人形! お前に言われなくたってボクは賛成のつもりだ! それにお前の許しなんかなくったって勝手に住んでやる!!

「ほら、文楽さん! 私とレヴィアさん、過半数が賛成しています! ということはもう決定ということでいいですね!?

「俺が言いたいことは三つだ。第一に、俺は最初から反対していない。第二に、お前達に決定権を与えた覚えはない。そして最後に、お前ら一緒に暮らすの無理だろ」

「それでは、全員賛成で決定ということでよろしいですね」

「都合のいいところだけ抽出ちゅうしゅつするな!」

 戦闘時や訓練時では、いつも戸惑ってばかりで戦術判断の遅いフェレスだが、こういうときばかりは決断と行動が恐ろしく早い。

 文楽はふと、楽しそうな表情で会話の流れを見守っているサラに問いかけてみる。

「サラ。お前は、それで異論はないか?」

「うん! レヴィア姉さまも、フェレスも、すごく面白くてサラは好き!!

「……ん? まあ、お前が納得してくれているなら問題はないか」

 サラの言葉に、僅かな引っかかりを覚えながらも、文楽はひとまず問題が決着したことに安堵あんどする。

「それでは早速、引っ越しの準備を始めないといけませんね。文楽さん、留理絵さんや雅能さんにもお手伝いをお願いしたいんですが、どうですか?」

「ああ。人手は多い方が良いな。二人に頼んでみよう」

「はい! レヴィアさんは、自分の荷物をまとめておいてくださいね」

「それはいいけど、機甲人形アーマードール機体からだも一緒に館へ持って行った方がいいかな」

「そ、それはさすがに、格納庫に置いておいた方がいいのでは……館と基地は、そう遠い場所にあるわけではありませんし」

「うーん。自分の機体からだが近くにないと、敵が襲ってきたときが不安だなあ」

「……レヴィアさんも、文楽さんに負けず劣らず頭の中が戦場なんですね」

 二人は少なくとも表面上、共通の目的がある今の所は休戦状態に入ったようだ。

 だが、いつ戦いの火ぶたが再び切られるのか、分かったものではない。

 渋々と言った表情で部屋を出て行こうとする文楽の背中を、ふとゼペットが呼び止めた。

「ああ、文楽君――一つ、留意してほしいことがある」

「なんでしょう」

「彼女は今回、量子頭脳の精密検査を行う予定だったのだが、その直前に逃げ出してしまったんだ。《英雄殺しアンタレス》が彼女を追っていたのも、元はそういった経緯だ」

 文楽は一度大きく息を吸い込んでから、その言葉が意味するところを冷静に見据え、言葉を返す。

「……つまり、彼女は何かを隠していると?」

「断定はできない。少なくとも外的な徴候は現れていない」

「なるほど。ですがそんな回りくどいことなどせず、本人に聞いてみたらいいのでは」

 文楽は端的に言い切るとゼペットの返事を待つことなく、サラを振り返って尋ねる。

「どうなんだ、サラ。お前は、精神をゲーティアに侵されているという自覚や症状はあるのか?」

 温和な雰囲気に満たされていた学長室に、ひやっとした冷たい風が吹き込み、その場に居た全員がぴたりと口をつぐむ。

 文楽の取った行動は正しい。だが、あまりに準備や段取りを無視し過ぎている。

 だが当の本人であるサラは、そんな空気に気づいていないのか、きょとんと首を傾げると元気いっぱいの大声で言った。

「えーっ。サラ、おかされたことなんてないよ?」

「さっ、サラさん! もっと言葉を選んでください!!

 一同が凍り付く中、弾かれたように真っ先に大声を上げたのはフェレスだった。

 真っ赤な顔をする羊角の仮装人形に、猫耳状の角を生やした仮装人形は首を傾げている。

「えー、なんで? サラ、そんなに変なこと言った?」

「いえ、その、何でと聞かれましても非常に困るのですが……と、とにかく! ダメなものはダメです!!

「教えてよー。フェレスのいじわる!」

 サラはフェレスの手を掴んでぶんぶんと腕を振り回す。まるで子供が母親にねだるときの有様そのものだ。

 もっとも、建前の上ではフェレスの方が人形知能デーモンとしては年下ということになっている。

 第六の大罪〈アスモデウス〉の人形知能デーモンであるサラは、その名の通り【七つの大罪セブン・フォール】の中で六番目に生み出された人形、つまり六女だ。長女であるルーシィや五女であるレヴィアに比べて生まれたのは遅いし、精神年齢も成熟してはいない。

 一方のフェレスは、第八の大罪〈メフィストフェレス〉の人形知能デーモンであり、末っ子となる彼女は一番年齢が若いはずだ。だが彼女の場合、他の大罪達とは事情が異なる。

 事情を知らない者の目には、あたかも「妹に甘える子供っぽい姉」という構図にその絵は映ってしまうことだろう。

 無邪気に〝おねだり〟を続けるサラと、答えに窮してうろたえるフェレス。膠着する状況にくさびを打ち込んだのは、レヴィアの意地悪い笑みと一言だった。

「ケチケチしないで教えてあげたらどうなんだ、いやらし人形」

「い、いやらし!? その呼び方は訂正してください、レヴィアさん!」

「じゃあふしだらメイドだ」

「わっ……私だって、怒るときは怒りますよ!!

「あれっ? ボクにはいつもの『ひどいです』は言わないんだね」

「レヴィアさんは、ひどいわけじゃなくて、ただの意地悪だからです!」

 蛇のような鋭い目つき睨みを利かせるレヴィアに対して、フェレスはおびえた草食獣のような頼りない瞳で必死に見つめ返している。

 かつては敵同士だった二人も、レヴィアが敵の呪縛から逃れた今は仲良くしている――ということは全くない。

「サラの言っていることは、外科的には事実だと言っていいだろう。【妖精】による検診を行った結果、汚染の徴候は認められなかった」

 ゼペットは物々しい顔つきを浮かべながら、文楽にひっそりとした声で語りかける。

「だが、それはあくまで外部に放射されている電磁波的形質が認められないというだけの話であって、内科的に証明されたわけではない。いや、心療内科的と言った方がこの場合は適しているかもしれない」

「分からない話に興味は無い。サラには俺やあなたを素手で殺せる能力がある。だが、俺もあなたもまだ死んでいない。俺はそれだけで充分だ」

 文楽はきっぱりと言い切る。だがその言葉には、自分に対してもそう思えと言い聞かせているような、不安をぬぐい去るための暗示のような響きがある。

「それに『機体に乗った人間だけを殺せ』という命令の仕方は、俺が知っているゲーティアの考え方とは違っているように思える」

「考え方か……すると君は、ゲーティアという〝現象〟に〝思考〟が存在すると考えているのかな?」

「今のは思いついた言葉を口に出しただけだ。正確な言葉だとは思っていない」

「いや、操縦士の実感というものは我々にとって尊い財産だ。我々はこの数十年、まだ自分たちが何と戦っているかすら、定かになってはいない」

「それが人類の未来の為だというなら、協力は惜しまない。あなたと込み入った話をするのは、少し疲れるがな」

 文楽は嫌味な言葉を隠しもせずにはっきり言い切ると、椅子から腰を持ち上げる。

 話が終わるのを横で待ち構えていたフェレスと、立ち上がった文楽が同時に口を開いた。

「文楽さん、お話しは終わりましたか? さっそく引っ越しの準備を始めましょう!」

「サラ、さっそくお前の機体の調整を行うぞ。試験運転は、できるだけ早いほうが良い」

 二人は全く同時に口に出してから、じっとお互いに顔を見合わせる。

「文楽さん! あなたは家庭と仕事、一体どっちが大切なんですか!?

「仕事だ」

「ひどいです! 正直そうおっしゃると思ってましたけど、本当にそう言うなんてあんまりです!!

 フェレスは頬を膨らませて怒りを露わにしている。今にも頭から湯気が昇りそうだ。

 断固として譲ろうとしない文楽に、フェレスはとうとう最大の切り札を切った。

「お引っ越しを手伝っていただけないんでしたら、今日のご飯は抜きにしますからね!」

「フェレス、それは交換条件とは言えない」

「どういう意味ですか?」

 文楽は「はあ」と大きくため息を吐くと、ぎこちない微笑と共に言葉を続けた。

「それは強制と言うんだ……お前の飯は美味いからな」

 素直に敗北を認める操縦士の言葉に、人形の少女は勝ち誇ったように微笑むのだった。

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